はじめに
取材における「聴く」ということについて、本から学んだ内容と自分自身の実践を通じて感じたことをまとめる。これまで質問リストの作り込みに重点を置いていた自分の取材スタイルに、新たな視点を得ることができた。
「聴く」ことの本質
キャッチボールをしない重要性
取材において重要なのは、キャッチボールをしないということ。キャッチボールをしてしまうと、ピッチャー目線になってしまう。ピッチャー目線だと「次に何を投げようか?」という視点になり、これは取材では「次に何を言おうか?」という思考に陥ることを意味する。
次に何を言おうかと考えているとき、私たちは相手の話を聞いていない。自分のことで精いっぱいになっているからだ。
相手が自分の話を遮ることなく話せる環境を提供することが、結果的に他者から尊重され、承認されていることの証となる。能動的に聴く姿勢こそが重要である。
聴くための土台 – 3つの要素
聴くための土台には3つの要素がある:
- 相手の話がおもしろい
- 相手の事が大好きである
- 自分にとって、ものすごく大切な話をしている
このうち2つを満たしていれば、ほとんどの人が身を乗り出して聴こうとする。この環境を自分で土台として把握しておくことが重要だとわかった。
現実的なアプローチ
1時間すべてが面白い良い話で埋まることは少なく、そもそも取材相手におもしろい話を求めること自体が間違っている。
1番目の「相手の話がおもしろい」はコントロールできる変数ではないので、2番目、3番目など自分自身でコントロールできる変数を意識する。
具体的には、興味関心を持つときの主体は「わたし」である。
事前準備の真の目的
下調べの本当の意味
取材前に入念に下調べをする:
- その人の著書
- 音源、映像
- 過去のインタビュー記事
- SNS、ブログ
- その人が身を置く業界を紹介した書籍
- 関連WEBサイトなど
重要なのは、これらを取材用の資料として読むのではないということ。
その人自身を好きになるために、好きになる手がかりをつかむために読み漁っていく。
現実的な対応
もしかしたら古い価値観を持っていたり、差別的な発言、薄っぺらい感じの人生訓を言っていたりして、「知らなきゃよかった」と思うことがあるかもしれない。人としては好きにもなれないかもしれないし、友達になれる気もしないかもしれない。
しかし、「この1点にとても共感する」「この考えには深く共感する」などがあれば、それを思いっきり膨らませて好きや興味関心を育てていく。そうすると「聴く」という姿勢がつくられていく。
情報が少ない場合の想像力
情報が少ない場合は、年齢や経歴から何パターンも想像を膨らませる:
- きっとこういう人かもしれない
- もしかしたらこんな経歴の人かもしれない
- こういう理由でこのような仕事についているのかもしれない
勝手に想像すること。大切なのは、その人の事を考える時間。
肩書や年齢、取材に応じてくれた背景を頼りに「こんな人だったらいいな」「こんな話ができたらいいな」と想像する。
ライターとインタビュアーの分離
ライターとしての自分とインタビュアーとしての自分を切り離すことも大切である。いい記事を書こうとするあまり、じっくりと聞けなくなっていく。
私が考えたこと・実践への応用
従来の考え方からの転換
事前に想定される質問リストを事前に作り込んでおくことで、ある程度記事のアウトプットの質を高めるということが大事だと思っていた。しかし、考え方やマインド面で捉え方を変えた方が、よりよい結果になるかもしれないと思った。
取材の目的による使い分け
想定される質問リストなどを考えることは、その取材の意義や目的によると感じた。
例:導入事例取材の場合
- 製品の導入前後の効果が見える形を事例として掲載する
- ユーザー自身が見ることでイメージがしやすくなる
- 最終的なゴールが明確に設定されている
例:店舗経営者への取材の場合
- 実際にお店をされた人がどのような経過をたどってお店を作ることになったのか
- お店の背景にあるストーリーを引き出す
- 製品購入に至る経緯を理解する
両立のアプローチ
事前に聞いておきたい導入事例として最低限度聞いておきたいことはある程度聞いておいて、そのあとのこと(そもそものお店を始めた経緯やお店を運営していて大切にしていることなど)は、相手に興味関心を持ち、「聴く」ということに徹することが重要。
具体的な実践方法:
- 導入事例として最低限度の部分は企画書通りに徹する
- それ以外の部分については、企画書を超えるのではなく、質問を忍ばせるのでもなく、相手の話を聞くということに徹していく
1つの型に尖るのではなく、両方取りをする形式:
- 事例ページとしての価値の部分は窮屈かもしれないがしっかり聞くこと
- そのほかのお店の背景やストーリーなどは質問ではなく「聴く」という姿勢で実際に聞いていく
まとめ
取材における「聴く」技術は、単なるテクニックではなく、相手への興味関心と尊重の姿勢から生まれる。事前準備も、質問リスト作成のためではなく、相手を好きになるための土台づくりとして位置づけることで、より豊かな取材が可能になる。
取材の目的に応じて、構造化された質問と自由な対話のバランスを取ることが、実践的なアプローチとして有効である。
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