読者の心を掴む事例記事を作るために、ターゲット像を深く考えてみた

読者の心を掴む事例記事を作るために、ターゲット像を深く考えてみた

〜4つの視点から考える、ターゲット設定の再現可能なアプローチ〜

なぜ今、読者像を整理しようと思ったのか

前回、GA4のデータを使って取材質問を考える話を書いたのだけれど、その後もずっと考えていることがある。

「データから見えてくる読者の行動は分かった。でも、画面の向こうにいる人たちは、実際どんな気持ちでこの記事を読んでいるんだろう?」

数字だけ見ていても見えてこない、リアルな読者の顔が知りたくなった。そこで、BtoB企業の事例記事を読んでくれる人たちを、もう少し体系的に整理してみることにした。

今回は、どんな業界でも応用できるような読者分類の方法を考えてみた。私自身の経験を元にしているけれど、きっと他の広報担当の方にも参考にしてもらえる部分があるのではないだろうか。


事例記事の読者を4つの軸で分類してみる

これまでの取材経験や、実際にお客様から聞いた声を整理していくと、大きく4つのタイプの読者がいることに気づいた。これは業界を問わず、BtoB企業の事例記事であれば共通する分類なのではないかと思う。

1. 【現状改善を求める現役ユーザー】

基本的な特徴 既にその業界で事業を営んでいる、または類似のサービス・製品を使っている方々。年齢層や性別は業界によって異なるが、日々の業務改善に関心が高い。

主な関心事

  • 既存の課題を解決したい(効率化、コスト削減、品質向上など)
  • 競合他社との差別化を図りたい
  • 新しい手法やツールの導入効果を知りたい

抱えている課題 業務の属人化、既存システムの老朽化、人材不足、市場競争の激化など、それぞれの業界特有の課題を抱えている。

記事を読む理由 「同じような立場の人がどうやって問題を解決したのか知りたい」という欲求が強い。自分と似た状況の事例があれば、具体的な改善イメージを持ちやすくなる。

実際に取材でお会いすると、「他社さんはどうされているんですか?」という質問をよくいただく。みなさん、ひとりで課題と向き合いがちだからこそ、同業者の成功体験に価値を感じてくれるんだと思う。

2. 【新規参入・導入を検討中の層】

基本的な特徴 これから新しいサービスや製品の導入を検討している方、または業界への新規参入を考えている方。年齢層は幅広いが、情報収集に積極的。

主な関心事

  • 初期投資やランニングコストを抑えて成功したい
  • 実際に導入・参入して成功している人のリアルな話が聞きたい
  • 製品・サービスの必要性と導入メリットを具体的に知りたい

抱えている課題 導入・参入のハードルの高さ、選択肢の多さによる迷い、投資対効果への不安、運用ノウハウの不足など。

記事を読む理由 「自分にもできそう」と感じたい、そして「最初の一歩を踏み出す勇気をもらいたい」という気持ちが強い。

成功事例を読むことで、漠然とした不安を具体的な期待に変えたいと思っている。特に、導入前の不安や課題が自分と似ている事例があると、強く共感してくれる傾向がある。

3. 【業界関係者・パートナー企業】

基本的な特徴 その業界に関連するサービスを提供している方、コンサルティングを行っている方、販売パートナーなど、顧客企業をサポートする立場の方々。

主な関心事

  • 顧客のリアルな課題と解決プロセスを知りたい
  • 最新の導入事例や活用方法を把握したい
  • 顧客への提案に使える具体的な情報が欲しい

抱えている課題 顧客の現場感覚とのギャップ、提案資料への説得力不足、競合他社との差別化の難しさなど。

記事を読む理由 「顧客への提案時に、具体的な事例として引用したい」「現場の生の声を理解して、より良い提案をしたい」という実用的な目的が強い。

営業担当の方からも、「この事例記事、お客様との商談で使わせてもらっています」という話をよく聞く。第三者の成功体験は、提案の説得力を大きく高めてくれるようだ。

4. 【潜在的関心層・情報収集層】

基本的な特徴 直接的な導入予定はないものの、業界動向や成功事例に興味を持っている方。研究者、学生、将来的な検討者、単純に興味を持った一般の方など。

主な関心事

  • 業界の最新動向を知りたい
  • 成功している企業の裏側を覗いてみたい
  • 将来的な参考情報として蓄積したい

この層は直接的な顧客になる可能性は低いけれど、SNSでのシェアや口コミ拡散、将来的な紹介や推薦など、間接的な価値をもたらしてくれる重要な存在だと思う。


この分類をしてみて気づいたこと

4つの読者層を整理してみて、改めて気づいたのは「みなさん、それぞれ全く違う情報を求めている」ということ。

でも共通しているのは、**「リアルな体験談や具体的なプロセスを求めている」**ということだった。

現役ユーザーは同じ立場の人の改善体験を、検討層は先行導入者の成功談を、関係者は現場の生の声を、関心層は業界の実態を。みんな、どこか「本当の話」を知りたがっている。

だからこそ、取材の時に大切なのは、表面的な導入効果だけではなく、導入前の課題、検討プロセス、実際の運用での苦労、予想外の効果なども含めて、立体的にお話を聞かせていただくことなんだと思う。


ターゲットの優先順位と戦略的思考

もちろん、全ての読者層を同じように意識するのは現実的ではない。リソースも限られているので、やっぱり優先順位をつけて考える必要がある。

一次ターゲットとして重視すべきは、現役ユーザーと検討層。この方々は実際に製品・サービスの導入に繋がる可能性が高いから。

二次ターゲットとして、業界関係者と関心層。直接的な売上には繋がりにくいかもしれないけれど、拡散や認知度向上、そして将来的な営業活動のサポートという意味で重要な役割を果たしてくれる。

興味深いことに、どのターゲットに向けた記事でも、「具体的な体験談とプロセス」を軸にすれば、結果的に全ての層に価値を提供できるのではないかと思う。


他の業界でも応用できる分析手順

この分析方法は、どんな業界のBtoB企業でも応用できると思う。私が実際に行った手順を整理してみると:

Step1: 既存顧客へのヒアリング 実際にお客様に「どんな情報を求めて記事を読んでいるか」を直接聞いてみる。

Step2: 営業担当へのインタビュー 現場の営業担当に「お客様からよく聞かれる質問」「商談で使いやすい事例の特徴」を聞く。

Step3: 問い合わせ経路の分析 どんな記事を読んだ後に問い合わせが増えるかを分析する。

Step4: 競合他社の事例記事研究 同業他社がどんな角度で事例を作っているかを研究する。

この4つのステップを踏むことで、自社特有の読者像が見えてくるはず。


これからの取材で意識したいこと

この整理をした後で考えてみると、取材の時に聞きたいことがより明確になった。

技術的な導入効果も大切だけれど、それと同じくらい重要なのは:

  • 導入を検討し始めたきっかけ
  • 検討プロセスでの不安や迷い
  • 実際の運用での予想外の発見
  • 周囲の反応や変化
  • 今後の展望や期待

こういった「人間的な要素」があってこそ、読んでくださる方に「自分事」として捉えてもらえるような記事が書けるのではないだろうか。


最後に

今回の読者分析は、まだまだブラッシュアップの余地があると思う。実際に記事を公開した後の反響や、定期的な顧客ヒアリングを通じて、少しずつ精度を上げていきたい。

でも、画面の向こうにいる人たちの顔を具体的にイメージすることで、より心に響く記事が書けそうな気がしている。データ分析も大切だけれど、やっぱり最後は「読者一人ひとりの気持ちに寄り添えるか」なんだなと改めて感じた。

どんな業界にいても、広報担当者が大切にすべきは「読み手の立場に立って考える」ということ。この基本を忘れずに、これからも温かい記事を書いていきたいと思う。

もしこの分析手法が、同じような悩みを持つ他の広報担当の方の参考になれば嬉しい。

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